© 2005 Kaz Oishi

現代イギリスこぼれ話  No.4

洪水のある風景 (つづき)

 ならば堤防をコンクリートで固めればいい、と思うかもしれない。しかし、それは人間中心的な考え方かもしれない。イギリス環境庁のプロジェクト・マネージャー、マーク・ディクソン(Mark Dixon)は、現在イングランドの東の海岸にある人工防波堤を破壊する作業を2003年から進めていた。防波堤があるために、大きな波や河川の大洪水があった際に水圧のバランスが狂い、そのために特定部位が決壊してかえって大きな被害を引き起こすというのが理由である。海岸は沼地が多く、津波や洪水があった際にはそれがスポンジのように水を吸い取ってくれるシステムが働いているのであり、それを有効利用するのが自然の理ということだ。
 東海岸だけではない。日本のような山があり急流が多い地形と違って、丘と平地が続くイングランドでは、川は自然の姿のままでゆっくりと草茂る堤防とともに流れゆく。水量が増してあふれれば、それは周辺の土地、牧場、畑へと流れ出る。川岸の土地が水を吸収するという自然のシステムに依拠しているのだ。被害がないわけではない。農作物はもちろんのこと、牛や羊も巻き込まれ死んでしまうこともあるし、人家が浸水することもある。洪水だ!と騒ぎながらも、イギリス人は堤防をコンクリートで固めようとはしない。見苦しい風景を嫌う彼ら流の美学なのかもしれない。詩人コールリッジが「西イングランドの野放図な小川」(the wild streamlet of the West)と呼んだオッター川のような川は現在でもイギリスのいたるところにある。翻って日本で昔ながらの小川はどれほど残っているだろうか?放送大学のラジオ番組で作家のリチャード・ビアード氏に日本と英国の田舎の風景でもっとも違うところは何かと尋ねたところ、日本には田舎にいってもコンクリートが目立つと言っていた。確かに河川の堤防もコンクリートで固められている。

 河川工事はよくないとか、今回のニュー・オーリンズのような惨劇を防ぐ必要はないというつもりはない。実際のところ、ロンドンのテムズ川でも堤防再建計画が進められている。地球温暖化による海水面上昇の危険と将来の水害の被害が今後大きくなる可能性が高く、国会やシティなど国の政治・経済の中枢が麻痺するのを回避するためである。人工的な防波堤や堤防が悪いというのではなく、安直な防備手段としての人工的防備は必ずしも有効でないことをディクソン氏の計画は訴えている。地形や環境システム等を考えた上での治水工事と都市計画、そして何よりも情報収集による入念な危機管理が必要なのであろう。実は我が家は東京湾の埋立地、しかも旧江戸川のわきにある。決して他人事ではない。いつ水害にあってもおかしくないのだから。ディズニーランドが水没するとき、それは我が家も沈むときと覚悟しよう。
(KO 17/9/2005)

Eton Boathouse under the waters

From Royal Windsor Website より

過去の「こぼれ話」記事 

Cool UK トップページへ