© 2005 Kaz Oishi

ええっ・・貴族院解散?

                                                       

ビッグ・ベンがそびえるイギリスの国会
    日本での参議院での郵政民営化法案否決、衆議院解散はイギリスのメディアでも大きくとりあげられ騒がれている。いっそ参議院も解散したら、などと意地悪なことを言ったなら、イギリスでは参議院にあたる貴族院(上院)は解散しないんだからそんなこと考えるべきではないと参議院議員から叱られそうだ。 
伝統と権威の体現者
Lord Chancellor
ところが、である。実はイギリスの貴族院の解散が近い将来ありえるかもしれない。イギリスの貴族院、あるいは上院(the House of Lords)は選挙制ではない。下院(the House of Commons)が通例4~5年に一度総選挙をするのと大きな違いである。国教会の司教、世襲制貴族、終身貴族によって成り立つ貴族院は、その社会的地位や政治・社会への貢献と経験によって選ばれるのであり、国民が直接関与できるものではない。しかし、今年再々選を果たしたブレア労働党内閣は、これを選挙制にしようという大規模な改革案を現在練っているようである。選挙制になれば、とうぜん解散もありうることになる。
 さまざまな問題を抱えた貴族院は、決して歴史的に安定した政治機関であったとはいいきれない。14世紀に成立した現在のイギリスの2院制議会であるが、17世紀まで貴族院は、地主や地方の利害を代表する下院に対して平均的に優勢であった。形勢が逆転したのはいわゆる清教徒革命の時でる。まず1642年に国教会司教が貴族院から追放され、そして1649年から王政復古の1660年まで貴族院は廃止されてしまった。(現在でもそのときの対立が女王陛下による毎年の国会開会式典に象徴的に再現されている。興味のある方は放送大学『英語IV’03)』の12回をご覧いただきたい。)

国王の権力に抵抗する清教徒下院議員(映画Cromwellより)
19世紀にも2,3の改革がなされるが、貴族院の権力制限・改革がもっとも大きくなされたのは20世紀に入ってだ。ロイド・ジョージの貢献度は大きい。1909年に世界初の累進課税を適用した予算案People’s Budgetを貴族院で否決されると、彼は下院の解散、総選挙に打って出る。(日本の首相がこの話を知っているとは思えないが・・)果たして国民の大規模な支持を取り付け再選をすると、貴族院には予算案を修正させても否決させない法案を1912年に通過させた。見事な復讐劇といえよう。予算案以外の法律でもほぼすべてに関して上院で否決されても下院で3期限連続して賛成可決されれば法律となることにしてしまった。
 その後も終身貴族を女王が認めたり、女性も貴族院に座れるようにうに貴族院の改革はなされたが、もっとも大きな改革は6年前、つまり
1999年に労働党が行なったものだ。92人を例外としてほぼすべての世襲制貴族を貴族院から追放したのである。地位だけで、ほとんど議会に参加していない貴族を除名したのは賢明だったといえよう。現在では政治的・法律的経験を買われて終身貴族になった議員を含む723名が貴族院に座っている。

国民の人気者して貴族院の改革者
Lloyd George
 現在計画中の貴族院改革はこの改革の延長線上にある第2弾ということになる。1997年の総選挙の際の労働党マニュフェストにも言及はあったが、これだけの改革は簡単にはいかない。反対も多いことは確かである。貴族院は有名無益のように見えて、実はそれなりの機能もある。党派の利害を完全に脱し切れないことも事実だが、下院よりは優れて公平な観点と、豊かな政治的・法律的経験をもって法案を吟味できる能力が貴族院にはある。それは選挙制ではないからこそ可能であり、それゆえにこそイギリスの法案は柔軟にかつ現実的に修正され可決されてきた。もし選挙制になれば、下院とおなじように政党の利害におおきく左右され、貴族院が体現しているイギリス的なコモン・センスが発揮できなくなる。選挙制になった上院(もはや貴族院とはいえないだろう)でもし郵政民営化法案とはいわなくてもpeople's budgetのようなものがでてきたら、利害関係を理由に否決されてしまうことになるのだろうか?それでは後退したことにならないだろうか?また、華麗な国会開会式典がなくなってしまうのだろうか?だとしたら、やや寂しい気はする。日本の衆議院総選挙の争点も不透明なところが多いが、イギリスの貴族院改革も先が読めない。

 

貴族院にてとり行われる
華麗なる国会開会式典

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 ベッカム様の大騒ぎ


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