現代イギリスこぼれ話 No.5
〜居酒屋(パブ)が流行ると不動産屋が儲かる〜
今年の秋はよく雨が降った。まるでイギリスを思い出すほど陰気でジメジメした日が多かった気がする。ふとイギリスのパブで生ぬるいビールを飲みたくもなる。フランスの「カフェ文化」に対して、イギリスはパブ文化といわれるほど、パブは生活の中心に根ざしている。
そのパブが今イギリスで大きな変化を遂げている。これまでパブはかたくなに11時ラストオーダー、11時半閉店という規律を守ってきた。夜に灯りがみえたらドイツの空爆機に攻撃されるという理由で、第2次世界大戦中施行された法律が、21世紀まで伝統として生き残っていたのである。それが、今月から24時間営業が可能になった。音楽やランチキ騒ぎもし放題になったのである。もちろん特別に許可をもらう必要がある。
これには賛否両論が飛び交っている。いまさらドイツの空爆なんか夜中にあるわけでもなく、時代遅れの制度は廃止してもいいという意見もある。しかし、50年以上も11時半閉店が続いてきたのには、イギリス人の生活習慣にとってそれが快適かつ秩序あるものだったからではなかろうか。深夜前には帰宅し、朝は早く起きて一日の活動をする。そんな規則正しさがイギリスの生活、特に田舎には浸透していた。もし11時半を過ぎて朝まで飲みたければ、ナイトクラブに行けばいいのである。都会で若者は夜更けまでそうして飲み騒ぐ。しかし、深夜過ぎの田舎は、静かな闇に包まれ、自然な落ち着きを漂わせていた。
また、無類のビール好きのイギリス人にとって、24時間営業は無制限に飲み続ける口実を与えてしまうことになる。最近ニュースでよく耳にするのが'bingeing'という単語である。本来は、たまにお酒を飲む際に、思いっきり飲み続けるような時に使う。ところが、現在は、パブが24時間営業になったら、bingeingする人間が増えると心配する声があがっている。平日の夜は仕事を考え控えるが、金・土にもなれば、果てしなく飲み続けるのではないか、という憂慮が広がる。
若者への悪影響もささやかれる。近年、肝硬変で死ぬ20代、30代の数が増えているイギリスである。これ以上お酒を飲みすぎる若者が増えては国民の健康上よろしくない、と声が上がっている。キアラン・モリアーティ博士は、アルコール販売時間の延長はますます多くの若者の患者を病院に送り込むことになる、と警告を発している。
パブの時間延長は、病院だけでなく、不動産屋も忙しくする。24時間営業の許可をもらったパブ近所にすむ人々は、間違いなく騒音を毛嫌いし引越しをするからである。友人の知り合いも一人、近所のパブの営業時間が延長され、音楽もうるさくなったので即座に引越しした。当然、その不動産の価値は低くなってしまう。儲かるのは不動産屋である。それぞれの自治体の委員会が営業許可を出すかどうか決めるのだが、それは委員会に誰が入っているかで恣意的に決定されてしまう。
パブの開店時間が延長されて、不動産屋がもうかるだけならいいが、なかなか反対者の声は静まることがない。(11/11/2005)
写真はBBCウェブサイトより
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